カーボンプライシングとは、CO₂などの排出に価格を付け、企業や消費者の行動変容を促す仕組みです。日本では2026年度から、一定規模以上の直接CO₂排出事業者を対象とする排出量取引制度が本格稼働しました。さらに、2028年度からは化石燃料賦課金の適用開始が予定されています。
制度の直接対象ではない企業も無関係ではありません。エネルギー価格や原材料価格への波及、取引先からの排出量データ提出要請、投資判断の変化など、影響はサプライチェーン全体に広がる可能性があります。
本コラムでは、カーボンプライシングの仕組みと種類、日本の最新制度、企業が備えるべき実務を法人向けに整理します。
目次

カーボンプライシングは、炭素に価格を付けることで、排出量の多い活動には相応のコストを、排出削減には経済的なメリットを生じさせる考え方です。規制だけで一律に削減方法を決めるのではなく、企業が削減投資、燃料転換、排出枠の調達などを比較しながら行動を選べる点に特徴があります。
環境省は、カーボンプライシングを「炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる政策手法」と説明しています。世界銀行によると、2026年時点で87の直接的なカーボンプライシング施策が実施され、世界の温室効果ガス排出量の約29%をカバーしています。
CO₂排出による気候変動の影響は、排出した企業や消費者だけでなく、社会全体が負担します。この外部コストを事業活動の意思決定に反映し、省エネ設備、燃料転換、再生可能エネルギー、低炭素製品などへの投資を促すことが、カーボンプライシングの主な目的です。
ただし、炭素価格を導入すれば自動的に脱炭素が進むわけではありません。価格水準、対象範囲、産業競争力への配慮、低所得者や中小企業への影響、削減技術の選択肢などを踏まえた制度設計が必要です。

カーボンプライシングは、政府が導入する直接的な制度だけでなく、国境措置や企業内部の投資判断に用いる仕組みまで含めて語られることがあります。企業実務では、次の違いを押さえておくと整理しやすくなります。
炭素税や賦課金は、化石燃料の使用などに伴うCO₂排出量に応じて一定の負担を求める仕組みです。価格があらかじめ示されるため、企業は将来コストを見通しやすい一方、削減量そのものが制度上確定するわけではありません。
日本では、石油石炭税に上乗せする形で「地球温暖化対策のための税」が導入されており、税率はCO₂排出量1t当たり289円相当です。これとは別に、2028年度から化石燃料賦課金の適用開始が予定されています。
排出量取引制度は、政府が一定の基準に基づいて排出枠を割り当て、企業が実排出量に応じた排出枠を保有する仕組みです。排出枠が不足する企業は市場から調達し、余剰がある企業は売却できます。
排出量全体を管理しやすい一方、排出枠の需給によって価格が変動します。そのため企業には、自社で削減するコストと排出枠を調達するコストを比較する視点が求められます。
J-クレジットなどのカーボンクレジットは、省エネ設備の導入や森林管理などによる排出削減・吸収量を認証し、取引できるようにしたものです。排出枠とは制度上の位置付けが異なるため、どの制度や目標に利用できるかを確認する必要があります。
インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が独自の炭素価格を設定し、設備投資や事業評価に活用する手法です。実際の税や取引費用ではありませんが、将来の炭素コストを投資判断に織り込むことで、脱炭素投資の優先順位を付けやすくなります。

日本政府は、GX経済移行債による先行投資支援とカーボンプライシングを組み合わせる「成長志向型カーボンプライシング構想」を進めています。2026年度の排出量取引制度、2028年度の化石燃料賦課金、2033年度頃からの発電部門における有償オークションの段階的導入が大きな流れです。
GXリーグでの試行を経て、2026年度からGX推進法に基づく排出量取引制度が本格稼働しました。対象となるのは、前年度までの直近3年度平均で直接CO₂排出量が10万t-CO₂以上の事業者です。初年度は2023年度から2025年度までの平均で判定します。
対象事業者には、排出量の算定、対象である旨の届出、移行計画の提出、排出実績量の報告、実績に相当する排出枠の保有などが求められます。排出目標量や排出実績量については、登録確認機関による確認が必要となる項目もあります。期限や算定方法は、経済産業省の最新マニュアルで確認してください。
化石燃料賦課金は、化石燃料の輸入事業者などに対し、輸入する化石燃料の使用に伴うCO₂排出量に応じた負担を求める制度です。2028年度からの適用開始が予定されています。
多くの需要家が国へ直接納付する制度ではありませんが、燃料や電力、物流、原材料などの価格に間接的な影響が及ぶ可能性があります。影響の程度は賦課金単価、市況、契約条件、各社の価格転嫁方針などで変わるため、現時点で一律のコスト増を断定することはできません。

| 制度対象企業には、排出量の算定・確認、移行計画、排出枠管理などの実務が生じる。 |
| 対象外の企業にも、エネルギー・物流・原材料価格を通じて間接的なコスト影響が及ぶ可能性がある。 |
| 取引先から、排出量データ、削減目標、製品カーボンフットプリントなどの提出を求められる場面が増える可能性がある。 |
| 省エネ、電化、燃料転換、再エネ調達などの投資価値が、将来の炭素コストを含めて評価されるようになる。 |
重要なのは、「制度対象か否か」だけで判断を止めないことです。自社が対象外でも、主要取引先が対象企業であれば、調達基準や価格交渉を通じて影響を受けることがあります。反対に、排出量を把握し、削減計画を説明できる企業は、取引継続や新規受注の面で評価される可能性があります。
| 自社のScope 1・2・3を整理する | まずは排出源、算定範囲、データの所在、責任部署を明確にします。GX-ETSの対象判定では直接CO₂排出量の集計が重要です。 |
| 制度対象とサプライチェーン影響を確認する | 自社の対象判定に加え、主要顧客・仕入先、エネルギーや原材料価格への影響を確認します。 |
| 削減施策を限界削減費用で比較する | 省エネ、設備更新、燃料転換、電化などについて、1t-CO₂を削減するための費用と実施時期を比較します。 |
| ICPを投資判断に組み込む | 複数の炭素価格シナリオを用い、設備投資の回収期間や事業採算がどう変わるかを検証します。 |
| Scope 2削減と再エネ調達を計画する | 電力使用量、拠点条件、目標年度に応じて、オンサイトPPA、オフサイトPPA、再エネ電力メニュー、非化石証書などを比較します。 |
GX-ETSへの対応と再エネ調達は、対象とする排出が異なります。GX-ETSは原則として燃料燃焼や工業プロセスなどの直接排出を対象とし、再エネ電力の調達は主に購入電力由来のScope 2削減に関係します。
したがって、再エネを調達すればGX-ETSの義務がそのまま減る、という関係ではありません。一方、電化によってScope 1を削減する場合、増加する電力を再エネで賄わなければ、Scope 2が増える可能性があります。燃料転換、電化、再エネ調達を別々に検討せず、全体最適で設計することが大切です。
クリーンエナジーコネクトは、企業の電力使用状況や脱炭素目標を踏まえ、コーポレートPPA、環境価値の調達、導入後の運用・効果検証まで支援しています。将来の炭素コストも見据え、再エネ調達を経営計画にどう組み込むかを整理したい場合は、GXソリューションをご活用ください。
前年度までの直近3年度平均で、直接CO₂排出量が10万t-CO₂以上の事業者が対象です。対象判定は毎年度必要です。事業者の範囲や算定対象となる排出活動は、経済産業省の最新資料で確認してください。
直ちに同制度上の義務が生じるわけではありません。ただし、エネルギーや原材料価格への影響、取引先からの排出量データ提出要請、情報開示への対応を考えると、Scope 1・2の把握と削減方針の整備は有効です。
PPAや非化石証書は、主にScope 2の削減や再エネ利用の主張に用いる環境価値であり、GX-ETSの排出枠そのものではありません。制度上利用できるクレジットの種類や上限は、最新ルールを確認する必要があります。
一律の正解はありません。導入目的、対象投資、想定する制度価格、エネルギー価格、削減目標などを踏まえ、複数の価格シナリオを置く方法があります。設定後も、制度や市況に応じて定期的に見直すことが重要です。
カーボンプライシングは、CO₂排出を経営上のコストとして可視化し、排出削減投資を促す仕組みです。日本では2026年度にGX-ETSが本格稼働し、2028年度には化石燃料賦課金の適用開始が予定されています。企業は制度の直接対象かどうかにかかわらず、コスト、取引先要請、投資判断への影響を確認する必要があります。
実務では、Scope 1・2・3の現状把握、削減施策の比較、ICPによる投資評価、再エネ調達を一つのロードマップにまとめることが重要です。制度対応を単なる負担として捉えるのではなく、エネルギー調達の安定化や競争力向上につながる施策を見極め、優先順位を付けて進めましょう。
|この記事を書いた人

岡 優来/Oka Yuuki
GXソリューション企画部 マネージャー
BtoB領域の営業・サービス企画をキャリアの起点に、商社系電力会社にて、営業・販売戦略の立案やDX推進に従事し、事業企画部門の課長職などを歴任。現在はクリーンエナジーコネクトにて、GX・再生可能エネルギー分野のマーケティング戦略の策定や、新規サービスの企画開発を担当。
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