企業の脱炭素経営において、再生可能エネルギーの調達方法が大きな転換点を迎えています。
これまで多くの企業は、年間の電力使用量に相当する再エネ証書や非化石証書を調達することで、Scope2排出量の削減を進めてきました。しかし近年、企業の再エネ利用をより実態に即して評価しようとする動きが世界的に広がっています。
その中心となっているのが、GHGプロトコルScope2ガイダンスの改定議論です。
現在検討されている論点には、電力使用と再エネ発電を時間単位で一致させる「アワリーマッチング」や、発電された再エネが実際に需要地へ供給可能であることを重視する「Deliverability」などが含まれています。
本コラムでは、GHGプロトコルScope2改定の最新動向を整理するとともに、日本企業の再エネ調達にどのような影響が想定されるのかを解説します。
目次

Scope2とは、企業が購入した電力や熱、蒸気などのエネルギー使用に伴う間接排出を指します。
企業の脱炭素目標やRE100、CDPなどの環境情報開示において重要な指標の一つであり、多くの企業が再エネ調達による削減に取り組んでいます。
現行のScope2基準では、年間の電力使用量に相当する再エネ証書や環境価値を保有していれば、再エネ利用として評価できる仕組みとなっています。
一方で、「実際に電力を使用した時間帯に再エネが供給されていたのか」「その再エネは本当に追加的な投資を促しているのか」といった点については、十分に反映されていないという指摘もあります。
こうした背景から、GHGプロトコルではScope2算定方法の見直しが進められています。
2025年から2026年にかけて実施されたパブリック・コンサルテーションでは、多くの企業や業界団体から意見が寄せられました。
最終的な改定内容はまだ確定していませんが、「時間整合性」「地域整合性」「追加性」といった考え方が今後より重要になる可能性が高いと考えられています。
従来の年間マッチングでは、昼間に発電された太陽光由来の環境価値を夜間の電力使用に割り当てることも可能でした。
そのため、年間で見れば再エネ100%を達成していても、実際には再エネが供給されていない時間帯に多くの電力を使用しているケースも存在します。
アワリーマッチングとは、電力使用量と再エネ発電量を1時間単位で一致させる考え方です。
たとえば、午後2時に使用した電力は午後2時に発電された再エネでカバーし、午後10時に使用した電力は午後10時に供給可能なカーボンフリー電源でカバーすることが理想とされます。
この考え方によって、企業の再エネ利用実態をより正確に評価できるようになります。
GoogleやMicrosoftなどのグローバル企業は、すでに24時間365日カーボンフリー電力で運営する「24/7 Carbon-Free Energy(24/7CFE)」を掲げています。
こうした動きは、今後の企業の再エネ調達の方向性を示すものとして注目されています。
24/7CFEとは、企業が使用する電力を年間ベースではなく、毎時間カーボンフリー電源で賄うことを目指す考え方です。
太陽光や風力だけでなく、蓄電池、水力、地熱、原子力など地域ごとに利用可能な電源を組み合わせることが想定されています。
RE100は年間ベースで再エネ100%を目指す取り組みですが、24/7CFEは時間単位での一致を重視します。そのため、24/7CFEはRE100よりもさらに高度な再エネ利用の考え方といえます。
現時点では24/7CFEへの対応が義務化されているわけではありません。
しかし、投資家や顧客からの要求が高度化するなかで、企業の再エネ調達戦略において重要なテーマになる可能性があります。
Deliverabilityとは、調達した再エネが需要地へ実際に供給可能であることを重視する考え方です。
仮に遠隔地の発電所由来の環境価値を取得していても、需要地との物理的な関連性が乏しい場合、その環境価値の評価方法が見直される可能性があります。
GHGプロトコルの改定議論では、再エネ調達の評価基準そのものが変化する可能性があります。これまでは調達した環境価値の量が重視される傾向にありましたが、今後はその再エネがどの地域で発電されたのか、どのような電源によるものなのか、そして実際に電力を使用した時間帯との整合性があるのかといった点も重要になると考えられています。
こうした変化を踏まえると、企業は単に環境価値を確保するだけでなく、自社の電力使用実態と再エネ電源の特性を踏まえた調達戦略を検討する必要があるでしょう。
非化石証書は引き続き重要な調達手段ですが、将来的には時間や地域との整合性について説明が求められる場面が増える可能性があります。
企業が再エネ電源を直接確保できるコーポレートPPAは、追加性やトレーサビリティの観点から注目を集めています。
国内でもオフサイトPPAやバーチャルPPAの導入事例が増えています。
アワリーマッチングや24/7CFEを実現するためには、太陽光発電だけでは対応が難しい時間帯への対策が必要です。
そのため、蓄電池や需要制御などを組み合わせたエネルギーマネジメントの重要性が高まると考えられています。
まずは全体像を整理すると、企業が取り組むべき事項は以下のように整理できます。
| フェーズ | 主な取り組み | 目的 |
| Step1 | 電力使用データの可視化 | 自社の再エネ調達課題を把握する |
| Step2 | 調達手段の見直し | 時間・地域整合性を高める |
| Step3 | 中長期ロードマップ策定 | 将来の制度変更に備える |
アワリーマッチングの議論が進むなか、まず重要になるのが自社の電力使用実態を把握することです。多くの企業では月単位の使用量は把握できていても、時間帯別の需要パターンまでは十分に分析できていないケースが少なくありません。
例えば、
では、必要となる再エネ調達戦略が大きく異なります。
まずは30分単位または1時間単位の電力データを取得し、自社の電力需要がどの時間帯に発生しているのかを把握することが重要です。
再エネ調達の選択肢は年々多様化しており、企業は自社の事業特性や脱炭素目標に応じて最適な手法を検討する必要があります。
主な再エネ調達手段には以下のようなものがあります。
| 調達手段 | 主な特徴 | アワリーマッチングとの関係 |
| 非化石証書 | 導比較的導入しやすく、多くの企業で活用されている | 時間帯との対応関係を把握しにくい |
| グリーン電力メニュー | 電力契約の変更のみで導入できる場合が多い | 電源構成や環境価値の管理方法による |
| オフサイトPPA | 再エネ電源との長期契約により追加性を示しやすい | 発電量データを活用しやすい |
| バーチャルPPA | 発電所を直接活用せず環境価値を調達できる | 時間・地域整合性の考え方が今後の論点となる可能性がある |
| 蓄電池 | 電力利用の柔軟性向上や需給調整への活用が期待される | 将来的な時間整合性向上に活用される可能性がある |
アワリーマッチングが重視されるようになった場合、企業は単に再エネ量を確保するだけでなく、「いつ発電された再エネなのか」「実際の電力使用とどの程度対応しているのか」といった観点も求められる可能性があります。
ただし、GHGプロトコルの改定内容や評価方法は現時点で確定しているわけではありません。そのため、特定の調達手法が将来的に有利であると断定することは難しく、企業には複数の選択肢を比較しながら柔軟な調達ポートフォリオを構築する姿勢が求められるでしょう。
GHGプロトコルのScope2改定は現在も議論が続いており、最終的な制度内容は確定していません。しかし、時間整合性や地域整合性を重視する方向性は世界的な潮流となっており、多くの企業が将来を見据えた準備を始めています。
重要なのは、制度改定が確定してから対応を検討するのではなく、自社の状況に合わせて段階的な取り組みを進めることです。
まずは電力使用実態を可視化し、自社の需要パターンを把握することから始まります。その上で、再エネ証書やグリーン電力メニューの活用による再エネ比率向上を進め、将来的にはコーポレートPPAや蓄電池の導入なども視野に入れながら、より高度な再エネ調達へ移行していくことが考えられます。
下図は、制度改定を見据えた企業の再エネ調達高度化の一例です。実際の進め方は業種や事業所の電力需要特性によって異なりますが、自社の現状を把握したうえで、中長期的な視点から調達戦略を検討することが重要になるでしょう。

GHGプロトコルScope2改定は、企業の再エネ調達を「量」から「質」へと進化させる可能性があります。
現時点では最終的な制度設計は確定していませんが、アワリーマッチングや24/7CFE、Deliverabilityといった考え方は、今後の企業の再エネ調達戦略に大きな影響を与える可能性があります。
企業にとっては、制度改定を待つだけでなく、自社の電力使用実態や再エネ調達方法を見直す良い機会といえるでしょう。
今こそ、共にクリーンな未来へ。
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