再生可能エネルギーの導入を進めたいものの、すべての拠点で太陽光発電設備やPPAを導入できるとは限りません。賃貸オフィス、小規模拠点、契約電力の小さい施設などでは、設備面や契約面の制約があるためです。
そこで選択肢となるのが「非化石証書」です。電気そのものとは切り離して環境価値を調達できるため、複数拠点の再エネ化やScope 2排出量への対応を段階的に進めやすくなります。
ただし、非化石証書には3つの種類があり、すべてが「再生可能エネルギー」として使えるわけではありません。RE100や各種開示で利用する場合も、トラッキング情報、対象年度、償却、電源の要件などを確認する必要があります。本コラムでは、企業の実務で迷いやすいポイントに絞って解説します。
目次

非化石証書は、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を使わない電源で発電された電気について、その環境価値を証書として取り出し、取引できるようにしたものです。証書1kWh分は、原則として1kWh分の非化石電源の発電に対応します。
制度上、非化石証書には主に次の価値が含まれます。ることが重要です。
◦非化石価値: 高度化法上、非化石電源比率の算定に用いることができる価値
◦ゼロエミ価値: 発電時のCO2排出係数が0kg-CO2/kWhであるという価値
◦環境表示価値: 小売電気事業者などが需要家に環境価値を表示・訴求するための価値
電力系統では、さまざまな発電所から送られた電気が混ざります。そのため、非化石証書を購入しても、自社のコンセントに特定の発電所の電気だけが届くわけではありません。
非化石証書が担うのは、電気の物理的な流れではなく、一定量の発電に伴う環境属性の移転です。企業は、自社の電力使用量に対応する証書を確保し、所定の手続きで使用を確定させることで、目的に応じた環境価値の主張に用います。

非化石証書は、電源がFIT制度の対象かどうかと、再エネ指定の有無によって3種類に分かれます。企業が「再エネ利用」を示したい場合は、FIT非化石証書または非FIT非化石証書(再エネ指定あり)が基本的な選択肢です。
| 種類 | 主な電源 | 再エネ訴求 | 主な調達経路 |
| FIT非化石証書 | FIT対象の太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマス等 | 可 | 再エネ価値取引市場。小売電気事業者、需要家、仲介事業者が参加可能 |
| 非FIT非化石証書(再エネ指定あり) | FIP、卒FIT、大型水力、非FIT再エネ等 | 可 | 高度化法義務達成市場の買い手は小売電気事業者。対象FIP電源では需要家との直接取引が認められる場合あり |
| 非FIT非化石証書(再エネ指定なし) | 原子力、廃プラスチック由来等を含む非化石電源 | 不可 | 高度化法義務達成市場の買い手は小売電気事業者 |
水力やバイオマスをRE100に算入する場合は、証書の種類だけでなく、RE100が定める持続可能性に関する要件も確認します。また、水素・アンモニアは製造時のエネルギー源によって環境属性が変わるため、名称だけで再エネと判断することはできません。

FIT非化石証書は、日本卸電力取引所(JEPX)の再エネ価値取引市場で年4回取引されます。需要家が直接参加することもできますが、会員手続き、年会費、取引・口座管理の実務が伴うため、小売電気事業者や仲介事業者のサービスを通じて調達する方法もあります。
非FIT非化石証書は、高度化法義務達成市場で取引され、市場の買い手は小売電気事業者です。相対取引も行われています。さらに、一定のFIP電源では、発電事業者と需要家の直接取引が認められています。対象範囲や手続きは制度改正の影響を受けるため、個別案件ごとに確認が必要です。
2026年8月17日時点で公表済みの直近通期実績は、2025年度分の4回のオークションです。FITは約定量加重平均価格、非FITはシングルプライスの約定価格です。
| 商品 | 第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 価格制限 |
| FIT | 0.40 | 0.40 | 0.40 | 0.44 | 0.40~4.00 |
| 非FIT・再エネ指定あり | 0.91 | 1.30 | 1.30 | 1.30 | 0.60~1.30 |
| 非FIT・再エネ指定なし | 0.72 | 1.30 | 1.30 | 1.30 | 0.60~1.30 |
単位: 円/kWh。価格制限は制度上の上下限であり、実際の調達総額ではありません。JEPXの年会費・取引手数料、仲介費用、小売メニューの設計費用などが別途生じる場合があります。また、過去の約定価格は将来価格を保証しません。
2026年度分も4回の取引が予定され、第1回は商品ごとに2026年8月21日から31日にかけて入札・約定が行われます。本コラムの確認日時点では結果公表前のため、最新の約定結果はJEPXの市場情報で確認してください。

GHGプロトコルでは、購入した電力に伴うScope 2排出量を、ロケーション基準とマーケット基準の2つの考え方で扱います。非化石証書は、品質要件を満たす契約手段として、マーケット基準の算定に反映し得ます。
一方、証書を調達したからといって、ロケーション基準の排出量がゼロになるわけではありません。算定・開示に使う際は、少なくとも次の点を確認します。
◦証書の発電期間と自社の電力使用期間が対応しているか
◦対象となる市場・地理的範囲が整合しているか
◦自社の使用量に対応する量を確保し、適切に償却・使用確定しているか
◦他社や小売メニューとの二重計上が生じない管理になっているか
◦利用する開示制度や顧客要請が定める追加条件を満たしているか
なお、GHGプロトコルのScope 2ガイダンスは改定作業中です。現行ルールだけでなく、将来の時間的・地理的な精緻化を見据え、発電時期や地域などのデータを管理できる調達体制を整えておくことが望まれます。
RE100で非化石証書を用いる場合、再エネ由来であることに加え、発電所情報等が付与されたトラッキング付き証書であることが重要です。日本の非化石証書は2024年度から全量トラッキングの運用となりましたが、個別の調達がRE100要件を満たすかは別途確認が必要です。
2025年版RE100技術要件では、市場境界、EACの償却、信頼できる主張、電源の持続可能性、運転開始またはリパワリングから15年以内とする制限と例外などが定められています。2026年版報告ガイダンスも公表されています。RE100加盟企業は、最新文書と自社の報告年度に適用されるルールを確認してください。

非化石証書とコーポレートPPAは、どちらか一方だけを選ぶものではありません。拠点条件、目標時期、予算、追加性の考え方に応じて組み合わせることが現実的です。
| 比較軸 | 非化石証書 | コーポレートPPA |
| 導入までの期間 | 比較的短く調達しやすい | 電源開発・契約協議に時間を要する |
| 数量の柔軟性 | 必要量に合わせて調整しやすい | 長期契約・発電量変動を踏まえた設計が必要 |
| 価格 | 市場需給や制度の影響を受ける | 長期の価格条件を設計できる一方、契約条件の精査が必要 |
| 追加性の説明 | 証書単体では限定的な場合がある | 新規電源の開発と結び付く契約は説明しやすい |
| 向いている場面 | 短期目標、賃貸拠点、小規模・多数拠点、残余需要 | 中長期目標、一定規模の需要、再エネ拡大への関与を重視 |
例えば、まず非化石証書で当面の目標に対応しつつ、並行してオフサイトPPAを検討し、PPAで賄いきれない需要を証書で補う方法があります。短期の実行力と中長期の調達戦略を分けて考えると、無理のないロードマップを描きやすくなります。
Scope 2、RE100、CDP、温対法、顧客要請など、何に使う証書かを明確にします。
対象法人・拠点・年度・電力使用量を確定し、既存の再エネメニューやPPA分を差し引きます。
再エネ指定、電源種、発電地域、運転開始日、発電期間、トラッキング情報を確認します。
JEPXへの直接参加、小売電気事業者、仲介・調達支援サービスについて、価格だけでなく事務負担や証憑まで比較します。
償却・口座移動、拠点配賦、二重計上防止、社内承認、監査対応の担当者と期限を決めます。
非化石証書は、設備導入が難しい拠点も含めて再エネ調達を進めるうえで、柔軟性の高い手段です。一方で、非化石と再エネの違い、Scope 2とRE100の条件、調達後の償却・証憑管理を理解せずに使うと、開示や対外説明で齟齬が生じかねません。
重要なのは、証書を買うこと自体を目的にせず、「どの拠点の、どの年度の電力を、どの基準に沿って再エネ化するのか」から逆算することです。短期は証書、中長期はPPAというように、時間軸を分けた調達計画も検討できます。
|この記事を書いた人

岡 優来/Oka Yuuki
GXソリューション企画部 マネージャー
BtoB領域の営業・サービス企画をキャリアの起点に、商社系電力会社にて、営業・販売戦略の立案やDX推進に従事し、事業企画部門の課長職などを歴任。現在はクリーンエナジーコネクトにて、GX・再生可能エネルギー分野のマーケティング戦略の策定や、新規サービスの企画開発を担当。
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