2026年7月29日、GHG Protocol(GHGプロトコル)は国際標準化機構(ISO)と共同で、企業向けのGHG算定・報告基準を一本化する方針を公表しました。対象には、Corporate Standard、Scope 2 Guidance、Scope 3 Standard、Actions and Market Instruments(AMI)の各ワークストリームと、ISO 14064-1が含まれます。
もっとも、企業が今日から使う算定ルールが直ちに変わったわけではありません。統合の方針と開発スケジュールは示されましたが、Scope 2をはじめとする具体的な要件は検討中です。GHG Protocolも、別途案内するまでは現行の基準・ガイダンスが有効であると説明しています。
企業にとって重要なのは、将来のルールを先回りして決め打ちすることではなく、算定根拠と再エネ調達の情報を、後から検証・組み替えできる状態にしておくことです。本コラムでは、2026年9月4日時点の公式情報をもとに、統合で決まったこと、まだ決まっていないこと、PPA・非化石証書を活用する企業が今から準備したいことを整理します。
目次

今回決まったのは、両者の企業向け基準を「単一の調和されたグローバル基準」として共同開発する方向です。新基準は二部構成での公表が想定され、実務を支える追加ガイダンスも整備される予定です。
GHG Protocolの2026年7月29日付FAQでは、統合基準の公開協議を2027年第2四半期、最終基準の公表を2028年第4四半期に予定しています。工程や内容は標準策定プロセスの中で変更される可能性があるため、公開協議前後に自社への影響を再評価することが欠かせません。
統合基準が完成するまで、現行のGHG Protocol基準・ガイダンスは有効です。ISO 14064-1についても、2018年版は2024年に確認され、現行規格として掲載されています。一方、ISOのステータスは「改定予定」とされ、後継規格の開発が進んでいます。

GHG ProtocolとISO 14064-1は、どちらも組織のGHG排出量を定量化・報告するために利用されています。ただし、文書体系や用語、報告・検証の扱いには違いがあり、企業によっては複数の要求を照合しながら運用する必要がありました。
両者は2025年9月に戦略的パートナーシップを発表し、基準の調和と共同開発を進めています。狙いは、重複や市場の混乱を減らし、企業、投資家、政策当局、保証・検証機関が利用できる一貫した基盤をつくることです。
| 観点 | GHG Protocol | ISO 14064-1:2018 |
| 位置づけ | 企業のGHG算定・報告で広く使われる基準・ガイダンス群 | 組織レベルのGHG排出量・除去量の定量化と報告に関する国際規格 |
| 区分 | Scope 1・2・3を中心に整理 | 直接排出・除去、購入エネルギーに伴う間接排出など6カテゴリーで整理 |
| 主な特徴 | Scope別の算定・報告や市場手段の扱いを示す | インベントリの設計、開発、管理、報告、検証に関する原則・要求事項を示す |
| 今後 | 企業向け基準群を統合基準へ集約 | 統合基準の共同開発対象。現行版も改定予定 |
表1:GHG ProtocolとISO 14064-1の主な位置づけ(2026年9月4日時点)

統合によって、Scope 1・2・3の数値が一つにまとめられるわけではありません。注目すべきは、企業全体のGHGインベントリと、再エネ調達などの具体的な行動、その行動による排出への影響を、整合性のある枠組みで説明しようとしている点です。
たとえば、電力使用に伴うScope 2排出量の算定と、新規再エネ発電所を支えるPPAが電力システムに与える影響は、関連はしていても同じ指標ではありません。統合基準では、何を測り、どの方法で算定し、どの主張の根拠にするのかを区別する方向が検討されています。
Scope 2では、電力調達の時間・地域の対応関係や、契約・証書などの市場手段をどう扱うかが議論されています。2026年7月には公開協議のフィードバックが公表され、8月25日付の関連資料も追加されました。ただし、アワリーマッチングや地域要件を含む具体的な新ルールは、2026年9月4日時点で最終決定していません。
したがって、「PPAや非化石証書が使えなくなる」「すべての企業に時間単位の一致が直ちに求められる」といった断定は避けるべきです。現行ルールに沿った算定・報告を継続しながら、検討状況を定期的に確認する必要があります。

AMIで検討されているマルチステートメント報告は、性質の異なる気候情報を一つの数値に混ぜず、別々に、透明性を保って示す考え方です。2026年7月29日付のGHG Protocol FAQでは、次の3種類を区別する意図が示されています。
重要なのは、これらを相互に相殺しないことです。たとえば、PPAにより取得した環境価値をインベントリへ反映する論点と、その契約が社会全体の排出削減へ与えた影響を推計する論点は分けて扱います。これにより、数値が何を表し、どのような主張を支えるのかを説明しやすくなります。
ただし、AMIの算定・報告要件、品質基準、市場手段の適格性は策定中です。マルチステートメント報告は有力な方向性ですが、現時点で確定した最終要件ではありません。

企業の再エネ調達では、オフサイトコーポレートPPA、バーチャルPPA、再エネ電力メニュー、非化石証書などが利用されています。今後は「再エネを調達した」という説明にとどまらず、インベントリ上の扱い、契約・証書で取得した属性、施策による影響を分けて示せることが重要になります。
これらの情報は、将来の改定対応だけでなく、現在の開示や第三者保証における説明力を高めます。契約書や証書を保管するだけでなく、活動量データと紐付けて検索・再計算できる状態が望まれます。

算定後のCO₂排出量だけを保存するのではなく、エネルギー使用量、購入電力量、排出係数の名称・年度・出典、計算式、修正履歴まで遡れるようにします。Scope 1・2・3で管理方法が分かれている場合は、共通の項目と責任者を定めるところから始めます。
拠点、期間、使用量、契約、証書、発電属性を結び付けます。現時点で時間単位のデータが必須と決まったわけではありませんが、スマートメーター等から取得できるデータの粒度と保存期間を把握しておくと、将来の選択肢が広がります。
Scope別の排出量と、PPA導入や省エネ投資などの施策がもたらす影響を同じ表で相殺せず、別の指標として管理します。投資判断の前提、ベースライン、算定方法、不確実性を残すことで、社外説明の一貫性も高められます。
サステナビリティ部門だけで完結させず、経営企画、総務・施設管理、電力調達、経理、法務、内部監査を巻き込みます。特に長期のPPAでは、環境価値だけでなく、価格・会計・契約変更の条件も含めた管理が必要です。
統合基準の公開協議資料が出た段階で、現行の算定方針、システム、再エネ契約、開示文言への影響を評価します。最終公表後の移行期間や、各開示・目標設定プログラムでの採用時期は、それぞれの機関が判断する可能性があるため、基準公表日と自社の適用開始日を同一視しないことも大切です。
第7次エネルギー基本計画は、2040年度の温室効果ガス73%削減目標と整合する形で、日本のエネルギー政策の方向性を示した計画です。
□ Scope 1・2・3の活動量と算定根拠を、担当者以外でも追跡できる
□ 排出係数の名称、年度、出典、適用理由を記録している
□ 拠点別の電力使用量とPPA・証書の数量を照合できる
□ 環境価値の帰属、移転、利用・償却を証明できる
□ インベントリ排出量と施策による影響を分けて説明できる
□ 基準改定情報を確認し、社内方針へ反映する責任者が決まっている
最終基準の公表は2028年第4四半期の予定ですが、適用開始日や移行期間は確定していません。また、開示制度や目標設定プログラムがいつ採用するかは、それぞれの判断となります。現時点では現行基準に沿って対応し、公式情報を継続確認してください。
直ちに全面変更する必要があるとは公表されていません。まずは現行基準に沿った算定を継続し、活動量、排出係数、契約・証書、計算過程のトレーサビリティを高めることが現実的です。
2026年9月4日時点で、そのような最終決定はありません。Scope 2の市場ベース算定、時間・地域の対応、契約手段の品質などは検討中です。調達手段を一律に評価せず、契約内容、証書属性、使用電力との対応関係を整理したうえで最新案を確認する必要があります。
AMIで検討されている方向性ですが、詳細な要求事項は策定中です。将来の採用を見据える場合でも、物理的なインベントリ、市場・契約ベースの情報、企業行動による影響を別々に管理し、カテゴリー間で相殺しないことが重要です。
GHGプロトコルとISO 14064-1の統合は、企業のGHG算定・報告を、より一貫性と比較可能性の高い枠組みに近づける大きな動きです。一方、2026年9月4日時点では、Scope 2やAMIを含む具体的な要件は策定中であり、確定した新ルールとして扱うことはできません。
企業がいま進めたいのは、予測に基づく拙速な算定変更ではなく、排出量の元データ、排出係数、PPA、非化石証書、環境価値の流れを紐付けることです。どの数値が何を示し、どの証憑で裏付けられ、どの主張に使えるのかを説明できる基盤は、基準改定への対応だけでなく、経営判断や第三者保証にも役立ちます。
クリーンエナジーコネクトは、企業のエネルギーデータ分析や脱炭素ロードマップの策定から、オフサイトコーポレートPPA、バーチャルPPA、環境証書の調達、導入後の効果検証までを一貫して支援しています。GHG算定基準の改定を見据えて再エネ調達戦略を見直したい場合は、現在のデータと契約の棚卸しからご相談いただけます。
|この記事を書いた人

岡 優来/Oka Yuuki
GXソリューション企画部 マネージャー
BtoB領域の営業・サービス企画をキャリアの起点に、商社系電力会社にて、営業・販売戦略の立案やDX推進に従事し、事業企画部門の課長職などを歴任。現在はクリーンエナジーコネクトにて、GX・再生可能エネルギー分野のマーケティング戦略の策定や、新規サービスの企画開発を担当。
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