FIP(フィードインプレミアム)制度は、再生可能エネルギーの普及と、電力市場との統合を後押しする仕組みとして、近年注目を集めています。本コラムでは、この制度の仕組みやメリット・課題に加えて、バーチャルPPAとの連携事例など、実務に役立つ観点から幅広く解説します。
FIP制度は、従来の固定価格買取制度(FIT)が抱えていた課題を補うもので、市場連動型の支援を通じて、発電事業者の収益を安定させ、再エネへの投資を促進します。また、市場の活用を通じて、再生可能エネルギーの自立的な拡大を後押しする制度として、新たな取引モデルへの期待も高まっています。 さらに本記事では、FIP制度が企業の脱炭素経営や再エネ調達戦略にどのような影響を与えるのかについても、客観的かつ前向きな視点から掘り下げていきます。
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目次

昨今、再生可能エネルギーの導入促進と電力市場の自由化が進む中、従来のFIT制度(固定価格買取制度)は十分な柔軟性を欠くとの指摘が高まっています。FITは、一定期間に固定価格で電力を買い取ることで事業者に事業の安定性もたらす一方、市場価格との乖離や、制度終了後の再投資促進には課題がありました。そこで、2022年度より導入されたFIP制度は、固定価格による保証を廃し、発電した電力を市場で売却した際の市場価格と、従来のFIT制度における基準価格との差をプレミアムとして交付する仕組みです。これにより、発電事業者は市場環境下でも収入の安定性を確保しつつ、電力市場と密接に連動した発電活動を継続できるようになります。
【FIT制度との比較表】
| 項目 | FIT制度 | FIP制度 |
|---|---|---|
| 買い取り価格 | 固定価格で保証 | 市場価格+プレミアム |
| 収入の安定性 | 制度期間内は安定 | 市場変動リスクあり(補填あり) |
| 市場連動性 | なし | あり |
| 再投資促進効果 | 限定的 | 積極的 |

FIP制度の最大の特徴は、固定価格買取制度(FIT制度)での調達価格方式とは異なり、「基準価格」と「参照価格」という2つの価格指標に基づいて、発電事業者にプレミアム(差額補填)を交付する点にあります。
プレミアムの算定式としては、一般的に「(基準価格 − 参照価格) × 売電量 = プレミアム」という形で説明されます。ただし、実務上は売電量の定義、時間帯別取引、出力制御対応など細かなルールが別途定められています。
なお、出力制御(電力供給が電力需要を上回る際、電力系統側が発電を抑制する指令)に係る時間帯については、制度資料上「市場価格が極めて低いコマ(例:0.01円/kWh)の時間帯」も、当月の他の時間帯に発電量・プレミアムを割り付ける(補填する)仕組みが明記されており、「補填が一切行われない」わけではありません。
市場価格は需給や季節、気象条件等に応じて変動します。そのため、参照価格およびそれに伴うプレミアムの金額も一定期間(例:月単位)で変動します。この仕組みにより、発電事業者は市場動向や需給バランスを踏まえた運営が求められ、例えばメンテナンス計画の見直し、発電時間帯の最適化など、柔軟な対応が促されます。結果として、再生可能エネルギーの供給を系統・市場と連動させることで、電力の需給バランス改善やコスト低減が期待されています。

FIP制度は、発電事業者が市場売電による収入に加えてプレミアム収入を得ることで、長期的な収入の安定を実現する仕組みです。これにより、再エネ事業への投資意欲が高まるとともに、既存のFIT契約終了後も持続可能な電力供給体制が確保され、リパワリングや再投資の促進にもつながります。
従来のFIT制度では電力市場との乖離が指摘されていましたが、FIP制度は市場参加型の仕組みであるため、発電事業者自身が市場価格を意識した供給活動を行う形に変わります。発電と市場取引が密接に連動することで、リスク分散が図られ、全体の需給調整にも寄与すると期待されています。
一方で、FIP制度には以下のような課題もあります。
・市場価格の変動によって月ごとの収入が不安定になる可能性がある。
・プレミアム算定方法が複雑で、長期的な収入予測が難しい。
・認定取得のプロセスに時間がかかる場合、開発が遅延するリスクがある。
これらの課題に対しては、制度の運用方法の見直しや、デジタル技術を活用した算定プロセスの自動化、認定プロセスの迅速化などが求められており、継続的な改善努力の一環として議論されています。

FIP制度のもう一つの大きな魅力は、バーチャルPPA(Power Purchase Agreement)との連携によって、収入の固定化とリスク低減が図れる可能性にあります。
バーチャルPPAは、発電事業者と需要家が固定価格との差金決済で電力取引を行う契約形態です(実際には、需要家の電力は従来の小売電気事業者から供給され、環境価値のみが取引されます)。従来は市場価格との差金決済が必要でしたが、FIP制度と組み合わせることで、この乖離をFIPプレミアムが補填し、発電事業者は固定価格に近い収入を得ることが可能となります。この仕組みを活用することで、需要家との間でリスクの少ない長期契約が実現し、環境価値の取引もスムーズに行われることが期待されます。
【バーチャルPPAとFIPの連携イメージ】
| 項目 | バーチャルPPAのみ | バーチャルPPA+FIP |
|---|---|---|
| 契約形態 | 固定価格+差額調整 | 固定価格+差額調整+FIPプレミアム |
| 市場リスク | 需要家が全て負担 | FIPプレミアムがリスクを低減 |
ソニーグループなど一部の大手企業は、すでにFIP制度を組み合わせたバーチャルPPAを導入しています。たとえば、約2MW規模の太陽光発電設備を保有する事業者と長期契約を結び、FIP制度のプレミアムを含めた固定価格で、発電量に応じた収入を得る仕組みが構築されています。
この事例は、再エネ発電が市場取引と連動することで、リスクがどのように軽減され、持続可能な収入モデルが構築できるかを示す好例です。

FIP制度は、単なる補助的な仕組みにとどまらず、再生可能エネルギーの市場連動性を高め、地域ごとのエネルギー需給の最適化や環境価値の向上を促進する可能性を秘めています。特に、地方自治体や地域企業が中心となって進める「地産地消」型のエネルギーシステムにおいて、その役割はますます重要になりつつあります。
FIP制度は、地域で生まれた再生可能エネルギーを経済的に自立させるための仕組みとして機能しています。従来のFIT制度が固定価格での買取を前提としていたのに対し、FIP制度では市場価格に連動したプレミアムが付与されるため、発電事業者や地域電力会社(PPS)が自らの判断で販売戦略を立て、市場動向を踏まえた柔軟に運用することが事業の収益性に貢献します。これにより、地域電力や自治体が、地元の再エネ電力を直接調達し、公共施設や住民に供給する「地域内完結型」のエネルギー循環を築くことができるのです。
また、蓄電池やデマンドレスポンスを組み合わせることで、電力市場価格の変動を活かした効率的な運用が実現します。価格が高い時間帯には売電を行い、安価な時間帯には蓄電や自家消費にまわすといった工夫が、地域レベルでの需給安定化に寄与します。さらに、非化石価値取引市場を通じて再エネの環境価値を可視化し、地域ブランドとしての「カーボンフリー電力」を高付加価値化することも可能です。これにより、地域産業や地場企業の脱炭素経営にも新たな道が開かれています。
FIP制度は、環境価値を電力市場に直接反映させる点で、国や自治体の脱炭素政策と親和性の高い制度です。発電事業者は、化石燃料への依存を減らしながらも、プレミアムによって一定の収益を確保できるため、事業としての安定性を保ちながら再エネ導入を拡大することができます。この経済的安定性は、技術革新への投資を促し、地域発の新たなエネルギー事業やスマートグリッド構築など、次世代のエネルギー基盤整備にもつながっていきます。
こうした市場連動型のアプローチは、単に電力を「作る・使う」という段階を超え、企業・自治体・住民が一体となってエネルギー価値を共有し、地域全体で持続可能な成長を目指す新しいエコシステムの形成へと発展していくでしょう。FIP制度は、再生可能エネルギーを地域経済の中に根付かせ、分散型社会の実現を後押しする鍵となる制度なのです。

FIP(フィードインプレミアム)制度は、従来のFIT制度の限界を克服し、市場連動型の支援策として再生可能エネルギーの普及を力強く後押しする新たな枠組みです。
FIT(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーの導入初期において極めて重要な役割を果たしました。一定期間、固定価格で電力を買い取る仕組みは、再エネ事業の採算性を確保し、太陽光や風力発電の急速な普及を促しました。しかし、普及が進むにつれて、固定価格による買い取りは市場競争を抑制し、コスト削減や技術革新を阻む要因にもなり始めました。再エネが主力電源化する時代には、「市場の中で価値を創出しながら自立的に運営できる制度」への転換が求められるようになったのです。
こうした背景のもとで導入されたFIP制度は、基準価格と市場価格の差額に基づきプレミアムを支給する仕組みを採用しています。これにより、発電事業者は市場価格の変動を意識しながら電力販売を行い、より主体的に電力市場に参加することが可能となりました。FIPは、安定した収益を確保しつつも市場原理に基づく運用を促す制度であり、持続可能なエネルギー経済の形成を後押しするものです。
また、近年はFIP制度とバーチャルPPA(仮想電力購入契約)を組み合わせる動きも広がっています。発電事業者と需要家が直接契約を結ぶことで、価格変動リスクを分散しながら、安定的な再エネ供給を実現できるようになりました。これにより、企業が自らの脱炭素戦略の一環として再生可能エネルギーを調達しやすくなり、地域経済における再エネ活用の輪が広がっています。
さらに、こうした仕組みの広がりは「環境価値を交換する市場」の発展にもつながっています。ここでいう環境価値とは、再生可能エネルギー由来の電力を利用することでCO₂排出削減に貢献したという“環境上の付加価値”を指します。非化石価値証書やトラッキング付き電力といった制度を通じて、この価値が企業や自治体の間で取引されるようになり、電力そのものに加えて「環境への貢献」も経済的価値として循環する仕組みが整いつつあります。こうした市場の形成は、地域に根ざしたエネルギー自給体制の確立や、持続可能な地域経済の発展にも大きく寄与しています。
もっとも、FIP制度の運用には月ごとのプレミアム変動や複雑な算定方法、認定取得の手続きなど、いくつかの課題も残されています。しかし、制度の継続的な改善やデジタル技術の導入、関係者間の協働によって、これらの課題は着実に解決されていくでしょう。
FIP制度は、再生可能エネルギーを「支援される存在」から「市場で評価される主体」へと転換させる大きな転機となっています。私たちは今後も、変化する市場環境に柔軟に対応しながら、地域や企業に最適なエネルギーソリューションを提案し、持続可能なエネルギー社会の実現に貢献してまいります。
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